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認知症の妻の介護でみえたこと−介護家族と医師の視点から その後 vol.7 失禁

2015-08-03

認知症の人の症状や行動で、介護を困難にすることのひとつが失禁です(注1)。認知症の妻の場合も失禁への対応で試行錯誤を繰り返しながらよりよい介護の方法を見出しました。

転居前

稀な脳炎(非ヘルペス性辺縁系脳炎)から回復したものの、妻に常時失禁が認められ、退院前にすでに紙おむつを使っておりましたが、歩行できる状態だったので、在宅では当初から使い捨ての「紙パンツ」を使いました。

尿失禁

市販されている多種多様の紙パンツをいろいろ試しました。着脱しやすく、保水性が高く、パンツ外への尿の漏れが少なく、不快感が少ないと思われる特定の紙パンツを見つけました(注2)。ショートステイでは、保水性を高めるために紙パンツのなかにさらに「尿取りパット」が使われるのですが、在宅では紙パンツのみで対応してきました。当初から認知症の妻が稀ですが、自らトイレで排尿することがあったからです。また紙パンツの交換時に尿取りパットを併用することは介護する私には煩雑と思ったからです。

紙パンツの交換は、紙パンツを脱ぐといった行為などがない限り1日4回(毎食事前の3回と就寝前の1回)としました。紙パンツを交換することがよく理解できない認知症の妻にとって交換することが、時に不愉快なことも少なくないようです。また介護する私の負担を考えて4回と決めました。食前に新しい紙パンツに替えることで、よりよく食事ができると考えました。

交換するときは、「ズボンに汗をかいている」と話しかけながら、4点歩行器を両手で持って立ち、後ろからズボンと紙パンツをおろし、新しい紙パンツと尿が濡れている場合は洗濯した別のズボンをはかせます。しかし紙パンツ交換の理解ができない認知症の妻は交換することを拒んだり、嫌がって私を足蹴りすることも稀ではありません。本人が嫌がっているから止めるわけにもいかず、1日4回の紙パンツ交換は力づくでも行わなければならない介護行為で、未だに私にとって在宅介護の大きな心理的負担です。

就寝中は、たとえズボンやシーツが尿で濡れていても、睡眠を優先して認知症の妻を起こしてまで交換することはしないようにしています。

以前から側臥位で寝る習慣がついている妻にとって、どの紙パンツも必ずしも合わないのです。市販の紙パンツは側臥位で就寝することを想定してはいないようです。このため衣類や寝具が尿で汚れることが少なくありません。少しでも濡れる範囲を少なくしたいと、敷き布団の上に子供用防水シーツで腰から臀部が当たる部分をおおっています。失禁に伴うシーツや衣類の汚れで洗濯量が増えても、「全自動洗濯機」のおかげでさほど負担は重くはありません。

紙パンツを使い始めて不思議に思うことは、紙パンツが多くの尿を吸収していても認知症の妻は不愉快さをほとんど示さないし、脱いだりすることがほとんどないのです。尿が紙パンツに多く溜まったからといって、自らトイレに行くこともほとんどありませんでした。尿失禁にほとんど無関心なようです。こうしたことは介護する私にとっておおいに助かるのですが、その姿を見るのは辛いことです。

便失禁

便失禁についても試行錯誤を繰り返しました。

認知症の妻は発病前から便秘傾向でした。1週間に1回排便ということも稀ではなかったようです。在宅介護を始めてから、この排便習慣を無視して下剤を飲ませたり、浣腸したこともありますが、下痢を繰り返してかえって介護が困難となり止めました。

試行錯誤のなかで、私なりの便失禁への対処方法を見つけました。まず排便の兆候を知ることです。紙パンツを交換する度に、パンツの中に便はないか、排便はなくても便意によると思われる汚れはないかを確かめます。あるいは落ち着かない様子があると、排便によるかもしれないと推測します。

便が出ている、出そうだと判断すると速やかに浴室に連れて行きます。なぜか拒むことが少なくて助かります。助かることと言うと紙パンツ内に便が出ていても、認知症の妻は無関心かそれに触わろうとしません(注3)。

浴室で紙パンツを脱がし肛門から人さし指を入れて便があるかを確かめます。便があればそのまま指で摘便します(注4)。指で確かめられる範囲で便がなくても、さらに奥に便がある可能性もあり、市販の浣腸液(40ml)を注入し5分ほど座らせます。再度指を入れて便がなければ浴室のシャワーで陰部を洗い、新しい紙パンツをはかせます。

こうした私の一連の行為に認知症の妻は拒むことが少なく助かります。これらを1週間から10日に1回の頻度で繰り返してきました。便でトイレや廊下や寝具がかなり汚れたという経験はほとんどありませんでした(注5)。

転居後

一戸建から賃貸マンションに移り生活空間がかなり狭くなり、認知症の妻にとって寝室からトイレまでの距離がかなり短くなりました。このためか判然としませんが、尿と便の失禁に少し変化がありました。

自らトイレにいく回数が増えました。トイレで紙パンツをおろして便器に座り、排尿したかどうかわかりませんがトイレットペーパーを使うこともあり、水を流すこともあります。このため、ズボンや寝具が尿で濡れることが少なくなりました。もっともこうしたことは転居前から見られたのですが転居後に顕著になったようです。紙パンツを1日4回交換することは今も同じですが、拒んで私が足蹴りに合うことは、少なくなりました。

便失禁についてもかなり変わりました。自ら便意をもよおしてか、トイレに行って排便することが多くなりました。このため以前よく行っていた浴室での一連の行為も少なくなったのです。摘便も少なくなりました。こうしたことも転居前から変化としては見られたのですが、便失禁については改善がみられると言ってもよい状態となりました。

もっとも転居前と同様、紙パンツの交換時の観察や排便したそうな様子を捉えてトイレに誘うことは欠かせません。

妻の認知症の原因である脳炎は、アルツハイマー病のように進行性ではありません。現状維持か日常生活で若干良くなることもあるということを実感しているこのごろです。

説明と私見

認知症介護において、困難で介護者にとって不愉快なことの一つが失禁(尿失禁と便失禁)です。失禁は、認知機能の程度によりさまざまな行動として現れます。

認知症が軽度で認知機能が比較的よく保たれていると、尿意を催してトイレで排泄しようとしますが、トイレ内で漏らしたり、間に合わなくて途中で漏らすことがあります。さらに認知機能が低下すると排尿して下着を濡らしてからトイレに行くことになることもあります。認知症がさらに重度になると下着内に排尿しても下着が汚れても無関心となることも稀ではありません。アルツハイマー病が重度となると、失禁に関心がなくなり臥床することが多く介護が楽になるという一面もあります。

こうした失禁の状態に加え、認知症の人も排泄に関して「はずかしい」「知られたくない」といった感情が働き、トイレに誘っても拒んだり、汚れた下着を隠そうとするのか、そのままタンスにしまったりすることもあります。

また便や尿でトイレの床や廊下が汚れ、拭いて綺麗にしようとすることもありますが、そのやり方が適切ではなく、汚れをかえって拡がらせてしまうこともあります。

認知症の人の失禁介護の基本は、認知症による認知機能の程度と行動を観察することが第一歩です。認知症介護の基本「何ができて、何ができないかを見分け、できないことではなく、できることを重視する」は失禁についても言えます。

さらに尿や便の排泄にかかわる際には、認知症の人の感情を配慮することも重要です。

また、できれば主な生活空間をトイレの近くに移して、ドアに「お手洗い」などの案内表示をすると効果的かもしれません(注6)。

排泄に関わることで、一日として欠かすことができないのが失禁介護です。ここでも最善ではなく持続可能な、よりよい介護の工夫を個別的に行うことです。

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