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「ぼけ」「痴呆」から「認知症」へ……名称変更と共に失われたもの

昔はよく近所の奥様方の井戸端会議で、「もう、うちのおばあちゃんが最近ぼけちゃって」「うちのおばあちゃんも、最近物忘れが多くて」なんていうやりとりがありました。そこには、どこかほのぼのとした空気が流れていたものです。しかし現在ではどうでしょうか。「最近、うちのおばあちゃんが認知症っぽいの」「認知症って大変なのでしょ? 急いで病院で診てもらった方がいいんじゃない?」なんて、なんだか物々しくなってしまいました。認知症という言葉が生まれると共に、どんな変化が起きてきたのでしょうか。

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認知症という言葉が生まれた

 「認知症」という言葉は、「ぼけ」「物忘れ」「痴呆」などの呼び方を廃止するべく2004年に厚生労働省によって改定されたもの。実際に私がいた介護現場でも、認知症は「痴呆症」と言われていました。改定以降に介護の世界へ入った方は、「認知症」しか知らないかもしれません。あるいは知っていても、「痴呆症」とは言わないでしょう。なぜなら、もともと呼び方が改正される表立った要因が、「その呼び方に侮蔑性がある」こととされているからです。

 そのため「認知症」以外の言葉は、まるで介護業界で言ってはいけないNGワードのように避けられています。そしてなぜか、ささいな物忘れがあったり、なんだかボーッとしていたりする高齢者の方々に対する世間の見方まで変わってしまったようです。

 そんな名称改定と未改定の狭間だった2004年、ヘルパー時代にこんなことがありました。

 長屋で一人暮らししていたSさん。ときどき近所で迷子になり、警察のお世話になっているみたいだと近所の方から居宅へ相談がありました。遠方に住む家族も了承し、とんとん拍子で介護保険を受けることに。まずは見守り兼生活援助で週3回、私ともう1人のヘルパーTさんが自宅へ訪問することになりました。

 最初は「自分でできる」「人に頼ったら恥や」なんて片意地張っていたSさん。しかし次第に変化が見られ、1〜2か月後にはサービス終了時間になると「あんた、もう帰るの?」なんて悲しそう。Tさんと「Sさん、優しいとこがあるよね」なんて、詰め所で笑って話していました。

 Sさんは、おしゃれで外出好き。しかし迷子になってしまうので、「出かけたいときはヘルパーさんと一緒でね」とSさんと約束しており、Sさんも律儀に守ってくださっていました。しかし、サービス開始から6か月経ったある日のこと。いつものように訪問すると、どこを探してもSさんがいません。家のカギは開いているのに、電気・ガスのメーターが動いてない。近所の方に聞いても知らないようで、警察の方も見ていないとのことでした。「大丈夫かな」と少し不安になりましたが、後日ケアマネに連絡があり、近所の畳屋にいたのだそうです。旧友が遊びに来ており、昔話に花が咲いて奥でお茶飲んでいたのでした。ケアマネへの電話も、本人からあったそうです。このときは「なんだ、良かった」と、Tさんと私は胸をなでおろしました。

 「でもSさん、友達と喋っていたなんて久々だよね」
 「うんうん。心配したけど、楽しかったならいいか」

 なんて詰め所で話していたときのこと。コーディネーターさんが「あのね、Sさんは認知症なんだから、進んだかなと思ったら報告しないといけないの」と、認知症チェックシートというオリジナル書式を見せてくれたのです。普通のアセスメントに加え、「認知症」と診断された方に独自で作っているのだとか。

 「ヘルプ時間を忘れるのは、物忘れじゃなく立派な病変じゃない。しっかりしないとダメだよ!」

 と、険しい表情のコーディネーターさん。見せられたチェックシートには、長期記憶や短期記憶、手続き記憶、エピソード記憶、意味記憶など、慣れない項目が羅列されていました。このとき、私が思ったこと。それは、

 「物忘れは特徴や個性ではなく、病気になったんだ」

 というものでした。しかし、それは私にとってあまりに突然のこと。その頃を思い出すと、今でも何と言ったら良いのか分からない気持ちになります。

次のページは・・ 「認知症」という言葉のパワー

キーワード: 介護家族 , 見守り , 認知症

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