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「今日初めて会話をした……」ケアプランにのらない信頼にこたえる支援を

2017-04-10

ケアマネジャーの業務の中に、月に一回のモニタリングがあります。自宅にモニタリング訪問することが基本ですが、ご家族の事情でショートステイを連続利用しているなどのケースでは利用中のショートステイを訪問することもあります。先日訪問した際に、ある利用者さんが「今日、初めて話をした」という言葉を耳にし、衝撃的でした。この言葉の意味について考えていきたいと思います。

面会者を見つめる目

85歳女性、Aさんのモニタリング訪問に訪れた時のことです。Aさんは普段は週2回のデイサービス利用で、独居生活は何とか出来ている状況です。

しかし、冬期間は火気の取り扱いと体調変化が心配ということで約3か月の予定でショートステイの利用となりました。利用開始月は特に問題なくモニタリング出来ましたが、2カ月目は感染症がショートステイ内で流行ってしまったため、完全に面会ができませんでした。少し予定の時期をずらしてのモニタリング訪問です。モニタリング訪問と言っても、利用者さんにとっては「自分に来た面会」という感覚かもしれません。

「こんにちは」とホールに入ると、そこにいる利用者さんは一様にこちらを見つめます。気が付かない利用者さん以外、来客者に目を向ける表情は複雑に映ります。

「誰だ? 見かけない顔」

「自分の知り合いかな?」

怪訝、期待、興味。私のお目当てのAさんは「不安と期待」といった表情に見えました。

「私の知っている人!」表情に生気が現れる瞬間

一目で見て「自分を担当しているケアマネジャーだ」と確信することは、Aさんにとって難しそうでした。なにせ、前回の訪問から1カ月以上、感染症の流行のせいで間が空いています。

「Aさん、○○です」

目の前まで行って、名乗って初めて確信を持てたようでした。するとAさんの表情が一変。

「ああ、わかる、わかる。ありがとう、来てくれたの?」

こう言ってはなんですが、とても嬉しそうです。

Aさんからはショートステイでの生活の様子を聞き、ケアマネジャーからは自宅の周りの様子や離れて暮らしている子どもたちの情報をAさんに伝えます。お互いに先ずは元気そうで一安心といったところです。

「良かった、今日初めて人と話した」

順調にいっている、このままもう1カ月、冬を越えられそう……と思いながらモニタリングを終えようと思った時、Aさんからの言葉に驚きました。

「ああ、楽しかった。今日初めて人と話をしてすっきりした」

訪問時刻は午後2時。それなのに、今朝から誰とも会話をしていないなんて。

聞けば、Aさんはそれがショートステイにきてから毎日の当り前だとのこと。改めて周囲を見渡すと、ショートステイの利用者さんの中ではAさんは自立度が高い方です。結局、特に困ったことも発生せず、手間のかかる介護も必要でないためにスタッフとの関わりが薄いようでした。同室者の方が十分にお話し出来ないこと、また、レクリエーションも体操や歌が主で特に他の利用者さんとの直接的な関わりが生まれない状況から、人対人で話す機会は本当に少ないということが分かったのです。そこで、初めてホールで自分に送られた利用者さんの視線の意味も分かりました。

こうしてAさんと話している間も隣の席、向かい席の利用者さんも話したそう。怪訝、期待、興味と感じた視線の多くは「期待」が多かったのです。

ケアマネジメントで見落としたこと

幸いAさんは心身の自立度は高い方でしたので、普段の会話や刺激が少なくともあまり変化がないようでした。しかし、もしも周辺症状が目立ってない場合の「静」の状態の認知症の方だったらどうだったか。不安や孤独を自分ではどうすることも出来ないでしょう。

施設や泊りのサービスを長く利用すると、残念ながら認知症が進むケースもあるということを自分としては経験していたつもりです。しかし私自身、Aさんのマネジメントについては冬期間のショートステイは混むという毎年の経験から、「空床あり」のショートステイに飛びついて調整をしたのでした。不謹慎かもしれませんが「認知症の方でなくてよかった」と思ったと同時に「Aさんで良かった」とも思ってしまいました。

利用者、家族に信頼されているということ

Aさんの「会話をしていない」発言を聞いた時、「なんてショートステイだ、会話もなく自立度の高い人は放置なのか?」と一瞬頭をよぎりました。しかし、実際にAさんをアセスメントしショートステイの利用調整をしたのは、ケアマネジャーである自分です。そのため、「どこのショートステイにするかはケアマネジャーさんにお任せする」と、Aさんとご家族に言われた際、「お任せ」と感じずに「信頼された」と感じるべきでした。

もっとAさんにふさわしいショートステイを熟考し、紹介し、複数のショートステイの空床をあたるべきだった。なぜなら、緊急性は少なかったので、もう少し自宅介護で繋ぎ候補のショートステイの空床のタイミングを待つことが出来たと思うからです。

ケアプランにのらない信頼にこたえること

日々の業務の中で「越冬組の行き先を早く確保したい」という気持ちが先に立っていたことは反省すべきことです。また、「利用者との会話」についてはどうでしょうか。「よく会話をしましょう」と懇切丁寧にケアプランに記載することがたまにあります。それは、利用者さんの心身の状況からそう書かないといけない場合、書かないと不安が残るサービス提供事業所という、やや負の要因がある時に虚しさを感じつつ記載することがあります。

ケアマネジャーもサービス提供事業所も、利用者本人や家族から信頼される存在であり続けなければなりません。ケアプランに載らないことの1つ1つにまで、約束しておかなければ実行できないようでは信頼に値しないでしょう。介護支援は対人援助であることに今一度立ち返り、ケアプランにのらない信頼にこたえることができる支援者でありたいと思います。

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