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「ショートステイに行った方が良い」とは言うのに、「退院おめでとう」とは言ってくれない

支援する側だけが四苦八苦する不思議

 ここで困ったのは病院スタッフです。医師や看護師、ケースワーカー、リハビリ専門職など。各方面から病態や後遺症について何度も説明しても、Aさん夫婦は麻痺に対する理解が浅いように見受けられます。前向きなことは良いのですが、いざ在宅生活に戻った時に困らないよう「出来ること」と「出来ないこと」の仕分けを行い、必要な支援の準備を整えて退院してほしいのです。そのために、他のケースのように介護保険の申請を行い、ケアマネジャーと連携したいと考えていました。

 しかしAさんは、「家に帰ったら毎日リハビリは私がするし、夫を車に乗せてまずは山に行きたいの」とケラケラと笑って見せます。そのため、まずは主介護者となる妻のAさんが受け入れてくれることから始めようということになり、移乗動作の介助方法や歩行訓練の方法、拘縮予防のための運動の方法をAさんに指導することにしました。しかし、どうもAさんは真剣に取り合ってくれません。病院スタッフの目には、Aさんが自己流の介護やリハビリを行う気なのだと映ってしまいます。

 病院のケースワーカーは、介護保険申請の段階までなんとかこぎつけました。しかし、必要と思われる住宅改修や福祉用具の準備、デイケアなどの検討まで少し触れて、ケアマネジャーに繋ぐということは出来そうにありません。何といってもAさん自身が自分で夫の麻痺を治す気持ちでいるのです。介護保険の申請はケースワーカーに押し切られ、「念のため」という気持ちで了解してくれたように感じました。

 ケースワーカーはAさんの意向で、自宅からもっとも近い居宅事業所のケアマネジャーと退院支援をすることにしました。しかし、今回のケースのように退院前に介護保険サービスの検討、調整まで準備万端にして送り出すということができないことは稀だったため、居宅のケアマネジャーには「入院中に何も退院後の生活について話が進まないケースですが、そのままお願いしても良いでしょうか」という形での依頼です。

 ケアマネジャーにとっても、ここまで病院関係者が困惑しているケースはあまり経験がありませんでした。しかし、介護のある生活をイメージできない人や、病気の後遺症がどのくらい日常生活に影響するのか分からないなどのケースはあります。そのような場合は、一つ一つ経験しながら必要な支援を行っていく方向になるのです。

 極端に危険な行為やリスク回避が必要なことはケアマネジャーがある程度主導していきますが、Aさん夫婦の場合、主介護者である妻の夫への愛情や望む暮らしのために自分が頑張るという気持ちが十分にあります。そのため「夫のために……」という形で働きかえれば、それほど心配はないように感じました。

 退院前、ケアマネジャーは病院と自宅に何度か訪問しました。Aさんは「気にかけてくれてありがとう。夫が帰ってくるのが楽しみで仕方ないの」と笑顔で対応してくれます。これからの在宅介護に対する不安より、夫が退院できるということの喜びが何十倍も勝っているのでした。結局、退院前に介護保険で準備したのはトイレの手すり設置と車いす、スロープの貸与、ポータブルトイレの購入。そして、「もしかしたら通所リハビリに通うかもしれない」という可能性を含んだ話ができたことでした。

 これからの生活に必要と思われるベッドは、Aさんによれば「折り畳み式の簡易ベッドを夫の退院祝いに親戚がプレゼントしてくれた」とのこと。そのため、明らかに低過ぎるベッドを使用することになったのでした。また浴室に関しては、総合的に見て自宅での入浴はAさんの全力介助でも到底無理だと考え、あえて住宅改修は全く行いませんでした。病院スタッフやケアマネジャーも、「入浴はさすがにAさんの手には負えないので、これが通所サービス利用のキッカケになるはず」と予測していたのです。

次のページは・・ いよいよ退院、そして……

キーワード: リハビリ , 医療と介護の連携 , ケアマネジャー

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