日付:2009/03/24 カテゴリ[摂食嚥下・栄養管理] 閲覧数[11851]
口から食べているけれども摂食・嚥下障害を起こしている、あるいはその可能性がある場合は、(1)姿勢、(2) 食べ物の内容、(3)食べ方や環境を観察し、問題があるときはできる限り改善していきます。 今回は3つ目の観察ポイント、「食べ方や環境」の見方をお話しします。むせにくい食べ方や食事に集中しやすい 環境は人によって異なります。既成概念や思い込みにとらわれず、柔軟な発想で対応することが大切です。
食べ方や環境の改善で上手に食べられるようになった高齢者の事例を紹介しましょう。
特別養護老人ホームに入所している80歳代の男性Aさんは、食事の時間になってもなかなか落ち着かず、うまく食べることができませんでした。そこで食事のときだけ個室に誘導し、1人で食べてもらうようにしました。すると、イスに座って食事に集中しやすくなりました。
在宅で介護を受けている90歳代の女性Bさんは、食べ物を 口に入れるペースがとても速いのですが、実は飲み込みができておらず、咳の反射もほとんどないため、のどに食べ物がたまってしまっています。「ゆっくり食べて」と声をかけてもなかな か直らなかったので、使っているスプーンを茶さじに替えてみました。すると1回に口に入れる量が減り、のどの残留もかなり減りました。
在宅で暮らす80歳代の男性Cさんは、好き嫌いがなく食べる意欲もあるのですが、飲み込みにとても時間がかかっていました。診察した歯科医師は、左を向いて食べるよう指導しました。そこで、食事中にはCさんの左側にテレビを置き、好きな番組を流すようにしました。すると飲み込みが良くなり、食事が以前よりスムーズになりました。
一人ぼっちで食事をしているAさん、使いにくい茶さじを与えられているBさん、食事中に横を向いているCさん。これらは一般にはあまり良くないとされることばかりかもしれません。しかし、それぞれに理由があります。
Aさんのように落ち着かない場合は、その原因が何かを考えることが重要です。Aさんの場合は、ほかの入所者が通るたびにそちらを見たり、ほかの人の食事に手を出したりしていたことから、原因は周囲に人がいるため に気が散ることだと判断し、一人で食事をとってもらうようにしたのです。 もし、名前を呼ぶとそわそわしてしまうような人なら、冷たいようですが、あえて食事中に声をかけないほうが良いでしょう。気が散りやすい人は一般的に、静かで刺激の少ない環境をつくってあげると落ち着きます。 Bさんは先行期(第1回参照)の障害と考えられます。目の前の食べ物を見て、何をどれくらい口に入れるかをうまく判断できていないようです。そこで、物理的にどんどん食べられない状況をつくったのです。 Cさんのケースは少し難しいのですが、食べ物が食道の入口を通過する経路に偏りがあると思われる例です。食道の左の通りが悪い場合は”左”を、右の通りが悪い場合は”右”を向かせると、通りがよくなることがわかっています。Cさんは、食道の左の通りが悪いのでテレビを見ようと自然に左を向くことで右側の通りがよくなり、結果的に飲み込みがスムーズになりました。
高齢者の中には、感情失禁といって、怒り、悲しみなどの感情が抑えられない人がいます。
わずかな刺激でスイッチが入り、いきなり怒ったり、泣きわめいたりしてしまいます。そういう人の場合は、感情のスイッチが何かを突き止め、そのスイッチが入らない工夫をしましょう。
紹介した事例のほかにも、おいしそうに盛りつけたら食べてくれた、おかゆにあられを入れて食べるときに音がするようにしたら食べられるようになった、おかゆが苦手な名古屋出身の人にミソ味のおかゆを出したら全部食べてくれたなど、ちょっとした工夫で食べられるようになった例は多々あります。 筋力がないために食べている間に疲れてしまったりする人の場合は、少量で栄養が取れるような製品を利用するのも大切です。 こうした個人個人によって異なる食べ方や環境の問題を把握し、改善するためのサポートには、ケアマネジャーの役割が重要です。必要に応じて医師、歯科医師、看護師、保健師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)、ホームヘルパーなどとチームを組み、継続的な支援を行っていきましょう。
さまざまな工夫によって食べるためのリハビリテーションを行うことは、保険点数でいう「摂食機能療法」に含まれます。以前は医師や歯科医師、(医師、歯科医師の指導に基づき)看護師、STなど一部の職種に限って認められていましたが、最近、歯科衛生士、PT、OTなどでも行えるようになりました。
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