日付:2013/12/13  カテゴリ[ニュース解説]  閲覧数[2141]

介護現場の「規制緩和」に残る不安

内閣官房より、「構造改革特区における第24次の検討要請」が関連省庁に示されました。今回提示された要請の中に、「通所介護や短期入所生活介護等における訪問看護(介護保険)の実施」と「通所介護事業所における看護師配置基準の緩和」が上がっています。いずれも同じ市町村より提案されたものです。

注意したいのは、2つの提案は同じ理由からなされたものだという点です。提案理由を見ると、「慢性的な看護師不足の状況にあるにもかかわらず、様々な場所に(看護師を)分散配置するのは非効率」としています。通所介護は整備数が多く看護師を相当数要しており、一方で比較的状態が安定した利用者もいる点を考えると、通所等へ訪問する看護師で充足させればいいのでは──というわけです。

整理すると、(1)看護師が絶対的に不足している、(2)通所介護事業所数から考えると看護師確保が難しい、(3)通所介護等における利用者の状態像は多様であるという点から、「通所事業所の看護師配置を緩和しつつ、利用者の状態像に応じて訪問看護で対応してはどうか」となるわけです。いずれにしても、(1)の看護師不足が、今回の提案の根っこにあります。

様々な規制緩和策においては、このように「国が定める制度に対して、現場レベルでは様々な困難があり、それが制度と現実のギャップを生み出している」という理屈がたびたび登場します。確かに、制度が現実の状況にマッチしていなければ、何らかの修正をほどこすことは当然でしょう。ただし、現場に近い現実のどこに問題があるのかを掘り下げ、国として対策をほどこしていかないと、「修正」はその場しのぎだけになりかねません。

今回の提案の場合、「少ない看護師をいかに必要な利用者へと効率的につなげるか」が趣旨ですが、「地域における看護師不足」の解決へと同時に踏み込まない限り、根本的な解決になるのかという疑念がどうしても浮かんでしまいます。ややうがった見方をすれば、「こういう効率的な方法があるのなら、当面の危機は乗り切れる」となり、看護師の絶対数をどう増やすかという政策スピードを鈍らせることになりはしないか、というわけです。

視点を少し変えてみましょう。仮に今回の要請が通ったとして、一方で看護師の絶対数が増えないままであるなら、どのようなデメリットが残ることになるでしょうか。確かに看護師を必要としている通所介護の利用者には、適切な療養管理がほどこされるかもしれません。利用者の状態をよく知る「なじみの訪問看護師」がいれば、通所でも安心して過ごせる可能性が高まることになるでしょう。

しかし、それ以外の利用者の中にも、大なり小なり健康不安を抱えるケースがあります。こうした利用者が訪問看護を使っていない場合、本人をよく知るのは「通所事業所の看護師」だけとなります。その看護師による、「この人の様子がいつもとちょっと違う」という気づきから、脳梗塞など重大な疾患の早期発見につながったケースもあります。この看護師の配置が緩和されたらどうなるでしょうか。

今回の提案では、「エリアサポートによる訪問看護に登録している」などの要件が示されてはいますが、絶対的な看護師不足が改善されなければ、通所現場への巡回訪問などが限定されるケースも起こりえます。そこに「制度と現実」の新たなギャップが生まれる可能性もあるわけです。今回の提案には「看護師不足が危機的状況にある」というメッセージがあり、国としては規制緩和と同時に、根っこの問題のすみやかな解決がうながされているのだということを受け止めるべきでしょう。

(福祉ジャーナリスト 田中 元)


この記事に関するコメントを見る、書く