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日付:2013/12/27  カテゴリ[ニュース解説]  閲覧数[6770]

当事者を悪質な「囲い込み」から守れ

大阪府にある高齢者向け賃貸マンションで、運営会社が入居者の預貯金を不正に引き出したり、居室に閉じ込めるという実態が指摘されています(関連ニュース参照)。不正引き出しが発覚したのは、入居者のほぼ3分の1を占める生活保護受給者であり、いわゆる悪質な貧困ビジネスである疑いが徐々に明らかになっています。

こうした生活困窮者を対象とした劣悪な囲い込みは、何年も前から存在が指摘され、そのつど社会問題となってきました。それでもなお、こうした事例が後を絶たないという中で、貧困高齢者の権利をどのように守っていけばいいのか。制度面のバックアップもさることながら、社会全体で監視・告発ができる体制が求められているといえます。

例えば、福祉先進国のデンマークでは、高齢当事者が組織する全国組織があり、施設などの立ち入り調査を行政ではなく、その当事者団体が行なう仕組みがあります。オーストラリアの施設では、要介護者が、施設を利用する当事者の意見や要望を取りまとめて運営者と交渉を行なうというシーンが見られます。

わが国にも老人クラブ連合会や認知症の人と家族の会のような全国組織はあって介護保険部会などにも参加していますが、制度的に保障された強い権限は限られています。「文化・風習の違い」と言ってはそれまでですが、一方で自立支援法にかかる仕組みでは、多くの当事者団体の代表が厚労省と膝を突き合わせて「制度の中身」を検討しています。わが国の高齢者介護でも、当事者参加を拡大していくことは決して不可能ではありません。

もちろん、当事者組織に行政並みの調査権限などを付与することには様々な議論があるでしょう。とはいえ、「行き場のない高齢者」が世間の目から隠されつつ深刻な権利侵害や虐待を被っている状況を考えると、当事者の立場から自律的に改善を図る仕組みが求められる時代になっているのではないでしょうか。

重要なのは、財産などが運営者側に詐取される事例があったとして、そこには当事者による自己決定権がまったく働いていない点が根っこにあることです。住宅型の有料老人ホームや特定施設ではない高齢者向け住宅では、介護保険サービスを受ける場合に在宅と同じく「自らの選択で個別にサービスを利用する」ことになります。にもかかわらず、併設事業者などによる一種の囲い込みが発生するというのも、本人の自己決定権が働いていない状況を象徴する一面であるといえます。

仮に、すべての入居者が「完全なる自分の意思」でケアマネを選び、建物運営の業者とは切り離された形でサービスを受けられる状況が徹底されれば、そこには確実に第三者の目が入ることになります。つまり、自己決定権をしっかりと守る仕組みがあれば、入居者の権利侵害や虐待などを抑えることができる力が働くことになるわけです。

現実的には、利用者が自らの意思をきちんと示せない状況もあるでしょう。しかしながら、「それでも本人の意思を尊重する」という社会全体の強い意思がなければ、「本人の意思表示が難しい」ことに悪徳業者はどんどんつけ込んできます。自己決定にかかるチェック機能が働かなければ、介護保険制度についてもその根本理念が崩れかねません。

例えば、利用者の貴重なパートナーであるケアマネの仕組みを発展させ、サービスや住居が変わっても(あるいは施設に入っても)常に同じ人が本人の意思をくみとって代弁するという「セルフパートナー」的な仕組みは考えられないでしょうか。当事者の権利を守るための大胆な一歩が求められています。

(福祉ジャーナリスト 田中 元)


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